【アパグループ】国内816ホテル12万771室、日本最大数ホテルチェーン(中編)
公開日:2024.06.25
最終更新日:2024.06.25
※以下はビジネスチャンス2024年8月号から抜粋した記事で、内容は取材時の情報です。
2022年4月、創業者から引き継ぐ
04.マネジメント体制変化
トップダウン型から転換 現場からのフィードバックを重視
元谷社長が現職に就いたのは2022年4月。就任してからマネジメント体制を大きく改革してきた。創業者である元谷社長の父、元谷外志雄会長は圧倒的なカリスマ性を発揮し、グループを長く牽引してきた。
しかし、元谷社長は元谷会長と同じようなトップダウン経営は自分にはできないと判断。そこで三角形の重心に自分自身を置き、重心で旋回することで、最速最短で従業員に熱を伝え、意思決定を反映させているという。この経営方式を元谷社長の造語で「TCOG(Triangle Center og Gravity)経営」と呼んでいる。
また、元谷社長は一方的に発信をするだけではなく、従業員からのフィードバックを受けやすい仕組みを構築。チャットツール「Slack(スラック)」を活用しており、従業員から元谷社長にダイレクトメッセージが飛んでくるという。
Slack上では200チャンネル以上が立ち上がり、元谷社長は多数のチャンネルに参加しコメントを書き込んでいるという。その結果、スピーディーな情報共有が可能になり、今年1月1日に起こった「令和6年能登半島地震」の際にも、大きな役割を果たした。
同グループでは、副支配人以上にスマートフォン「Galaxy(ギャラクシー)」を支給している。震災当日は現地から Galaxyを使って、Slack上に被害状況が刻一刻と流れてきたという。石川県七尾市に住宅部門のマンションの事業所があり、そこで働く従業員が元旦から避難所暮らしを余儀なくされていたのだ。
同社はタイムリーに上げられる情報を見ながら、1月3日には救援物資を現地に届けていたという。元旦ということもあり、行政の対応は遅れ、行政からの救援物資が届いたのは1月4日。結果的に行政より先んじた行動となった。
ライフラインが整うまで延べ7回救援物資を送ることができ、従業員の家族の安否確認にもSlackが有効的に活用できたという。意見交換の場が、有事の際に副次的効果を発揮したのだ。
05.1ホテル1イノベーション
ホテル新設ごとに改革を 客室設備、サービスなど改良
元谷社長は、新しいホテルができる度に1イノベーションをする「1ホテル1イノベーション」を掲げている。マネジメント体制を変え、活発な意見交換ができるようになったことが、イノベーションのヒントに繋がっているという。
「イノベーションをすることは、リピーター戦略の一環です。経済原論のイロハで『カレーライスの法則』というものがあります。お腹が空いている一杯目のカレーライスの満足度は高い。しかし、2回、3回と全く同じカレーライスを提供すると、満足度が順に下がるという法則です。つまり、変わらぬ宿、変わらぬサービス、変わらぬハード、変わらぬソフトでは、いつの間にかお客様の満足度が下がってしまう。これを改善するために、1ホテル1イノベーションが必要になるのです」(元谷社長)。
直近では、今年2月にオープンした上野御徒町のホテルで、いくつかのイノベーションを実施。訪日客の需要が増えてきたため、訪日客向けに椅子とテーブルの高さを5cm上げたという。また、大浴場の椅子を全部40cmの高さの椅子に刷新。これにより、高齢者でも楽に腰を掛けられるようになった。
さらに、欧米人は少し暗めの照明を好むため、主照明を調光できるように変更。初期設定の明るさを50%にすることで、節電効果も発揮。利用者目線だけのイノベーションをすると、財務的負担が掛かってしまうため、経営者目線も兼ね備えたイノベーションを実施しているという。
そして、ホテルだけではなく、従業員の働く環境についても少しずつイノベーションを重ねている。オフィスの改装をしたことで、「自宅以上に居心地が良い」と話す従業員もいるという。
また昨今、従業員の福利厚生の一環として、「オフィスでご飯」といわれる置き型社食を導入。オフィスでご飯とは、無添加やグルテンフリーの冷凍食品を安価に購入できる制度だ。ホテルに在籍するアルバイトクルーも利用することが可能で、社内の6割以上の従業員が活用しているという。これによりアルバイトの離職率を防ぎ、採用にもプラスに働いているという。
大都市は直営・地方はFCで
06.FC展開
FC展開13年で28法人56ホテル 異業種からの参加も増える
一般にはあまり知れていないが、アパホテルはFCも展開をしている。同社がFC展開を始めたのは2011年のこと。10年以上が経ち、現在は国内にFC56ホテルを展開しており、加盟法人は28法人となっている。
「日本の人口動態を考慮し、選択と集中が必要とされる中で、今後当社の資本は大型都市圏を中心に投下するべきだと思い至り、FC展開を始めました。地方への進出は地場の方と協力して、共存共栄することでスムーズに全国展開ができるのではないかと考えたのです」(元谷社長)。
初めてのFC加盟法人は、飲食業を本業とし、副業的にホテルを運営していた「ステノ」だ。ステノは、茨城県水戸市で旧ホテルステノを運営しており、ブランド力を求めて加盟を希望。アパホテルに改装をして、2012年3月にFC1号目となる「アパホテル水戸駅北」が開業した。
当時、元谷社長は水戸に直営を出すことが是か非かを考え、地場の企業に運営を任せた方が良いと判断し、FCでの開業に至ったという。ステノは現在、水戸駅近辺で2棟のアパホテルを運営中だ。
近年は、複数展開する法人が増えており、多地区で展開をするケースもあるという。2012年7月にFC2号目となる「アパホテル高松瓦町」を開業したのは「アサノビル」だ。アサノビルは現在、香川県高松市に1ホテル、神奈川県伊勢原市に1ホテルを運営。自然災害などのリスクを考慮し、リスク分散のために多地区での展開を選択したという。
アサノビルはもともと家具の卸業を本業としており、香川県高松市で旧ビジネスホテルアサノを副業として手掛けていた。しかし、ホテルの運営状況は芳しくなく、負債として次世代に受け継がれたという。アパホテルに改装後、見事V字回復を果たし、現在は家具事業を畳みホテル業一本経営になっている。
アパホテルFC加盟法人は、もともとホテル業を展開していた法人が半分程度。大手ホテルチェーンからアパホテルに鞍替えしたケースも多い。「ドーミーイン」「ルートイン」「ワシントンプラザ」だったホテルが、リブランドして現在アパホテルとして運営されているケースもある。
また、昨今は、学習塾、不動産業、ゼネコンなど異業種から参入するケースが増加。加盟法人の中で最多のアパホテルを運営するのが、貸会議室事業を展開する「TKP」だ。TKPは現在12ホテル(計画含む)を運営しているという。
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