【エニタイムフィットネス】現役世代の需要掘り起こした24時間マシン特化型ジム
公開日:2023.02.21
最終更新日:2023.05.02
※以下はビジネスチャンス2022 年6月号から抜粋した記事で、内容は取材時の情報です。
初出店からわずか12年で1000店舗を突破
Fast Fitness Japanは、「ヘルシアプレイスをすべての人々へ !」という企業理念のもと、マシントレーニングに特化した24時間型スポーツジム「エニタイムフィットネス」(以下:エニタイム)を日本でFC展開している。現在国内で展開する店舗数は1002店舗(2022年3月末時点)で、その前の3期だけで見ても502店・736店・907店と急拡大している。これは同規模の店舗数で展開するコメダやワークマンの年間平均40 ~ 50店舗出店と比較しても2倍以上の出店数だ。なぜエニタイムは拡大を続けられるのか。躍進の理由を土屋敦之社長に聞いた。
Profile つちや・あつゆき
1967年生まれ、長野県出身。91年野村不動産入社。2010年ファストフィットネスジャパン取締役、AFJ Project取締役。12年ファストフィットネスジャパン代表取締役副社長、 AFJ Project代表取締役副社長。17年ファストフィットネスジャパン代表取締役社長営業本部長、AFJ Project代表取締役社長営業本部長。18年ファストフィットネスジャパン代表取締役社長(現任)、AFJ Project代表取締役社長(現任)。
エニタイムは、2002年にアメリカのミネアポリスで産声を上げた世界初の24時間マシンジム特化型フィットネスジムだ。現在は全世界で約5000店舗以上を展開しており、総合型スポーツクラブのようなプールやスタジオなどは持たず、トレーニングマシンに特化している。会員になると専用のキーが渡され、それによって世界のすべての店舗を相互利用することができる。日本では2010年に東京・調布に1号店を出店し、現在は全国47都道府県で1002店舗を出店。これは北米を除いたエニタイムの中ではナンバーワンの数である。
世界でも珍しい直営店舗の出店 日本ならではのFC契約形態
ーー全国1002店舗のエニタイムの内、165店舗(約16%)が直営店舗です。直営とFCの両方で展開する形態は、他国のエニタイムでも行われているのですか。
土屋 いいえ、アメリカ含め海外では直営店舗を持っているところはほとんどありません。エニタイムは元々フランチャイズビジネスとして始まったので、日本のエニタイムは独特の形態ですね。アメリカ本社から「直営をやるなら別会社にしてほしい」と要請されたので、日本では当社の子会社であるAFJ projectが、メガFCのような形で直営店全体を統括しています。
ーーアメリカ本社からも、直営とFCの二形態が認められていると。
土屋 コロナ前に、アメリカで行われた各国のマスターフランチャイジーが集まるサミットに行った時、日本では直営店を作ることが成功の鍵であると認めてもらえました。店舗数が増えるのであれば、そういった選択肢があってもよいと捉えてもらっています。
ーーなぜ、日本では直営店が必要だったのですか。
土屋 アメリカでFC契約をする場合は、まずエニタイムのビジネスモデルをオーナーに説明した後、出店できるエリアの権利を販売します。しかし私は、日本で他業種がその方法でFCを募ったところ上手くいかなかった事例を知っていました。そこでまずは直営店を作って実績を知ってもらい、その後FCオーナーと契約することにしたのです。そしてFC加盟契約は、必ず物件契約と同時に行うことにしました。そうすることでオーナーも店舗の家賃が発生するため、結果的にFCオーナーとのファーストコンタクトから開業までの期間が早まり、半年ほどで新店舗を開店できる体制になりました。
エニタイムの会員数は2021年12月末で62.2万人。その内20〜40代が約9割を占め、さらにその中の8割弱が男性となっている。この「現役世代」を囲い込んだのが、同社成功の大きな要因だ。そこには、前職で総合型スポーツクラブチェーンの執行役員を務めた土屋社長だからこそ感じた危機感があらわれていた。
スポーツジムの高齢化に危機感 2号店目の成功で大きな手応え
――土屋社長は元々、大手スポーツクラブの運営会社にいらっしゃったということですが、幅広い年代の層を顧客とする総合型スポーツクラブとは異なり、エニタイムは利用対象者層が明確です。
土屋 私が前職に在籍していた時は団塊の世代がリタイアする時期だったので、総合型スポーツクラブがその層を獲得しようとサービスを中高年にシフトしていっていました。ただ同時に、「総合型スポーツクラブは若い世代が行くところではなくなってしまう。今後どうなるだろう」という危機感を強く持ったのです。
――だからこそ、エニタイムは最初から現役世代を対象に狙っていった。
土屋 いや、最初からターゲットが分かっていれば苦労しません(笑)。2010年10月に出店した1号店の調布と翌年4月にオープンした東京・赤坂アークヒルズ店、そしてFC1号店の神戸・高速長田店を出店したところで、会員の属性を調べてみたのです。そうしたら各店舗とも7対3で男性が多く、20代から40代が8割以上を占めているという結果が出ました。「現代の日本では、この層の人たちがエニタイムを評価してくれているんだなぁ」と思いました。だったらそういう人たちがいる場所に出店していこうと。
――24時間マシンジム特化型という前例がない中、マーケティングなどはどのように行っていったのですか。
土屋 1号店の調布店は自宅に近く、何かあっても30分程度で駆けつけることができる場所でした。また前職のスポーツクラブが調布にあり、非常に集客が良かったことから、調布はフィットネスに理解のあるエリアと考えたのです。総合型スポーツクラブは元々、建物や設備、マシンなどの施設に投資して人を集めるという〝装置産業〞として始まっています。でも我々は1号店を作る時から、エニタイムを〝サービス業〞としてやっていくことが重要だと思い、夜間の人がいない中でもどうやってサービスを展開していけるかを考えていきました。
――会費や収益モデルといったビジネスパッケージは、どのように決めたのですか。
土屋 FC展開することが前提なので、まずは初期投資が3年で回収できる会費であること。また当然、総合型スポーツクラブより安くなくてはいけない。1号店出店にあたり、あるフィットネス専門雑誌の記事を参考に、会費は周囲のスポーツクラブの7掛けの額にしようと決めました。前職のスポーツクラブは平均単価が8000円だったので、1号店の会費は5500円くらいに設定したのです。またこの業態は変動費が少ないので、経費の中に占める家賃の割合がある程度想定できます。ですから当初は、その店舗で取れるであろう会員数から逆算して家賃の額を決め、当てはまる物件を探して店舗開発をしてきました。
――2号店の東京・赤坂アークヒルズ店は非常に家賃も高額だったと思いますが、それでも会員は集まると。
土屋 正直、集客できるかが一番の心配事でした。アークヒルズは家賃が調布店の約2.55倍だったので、会費も調布店の5500円から8500円に引き上げました。しかしその値段にも関わらずしっかりと集客ができ、オープン前で既にWEB入会者が200名を超え、会員500名への到達はむしろ調布店よりも早かった。このアークヒルズ店の成功で、場所によって会費を変えられること、またオープン前の販促方法がある程度見えてきたので、これでいけると手応えを感じたのです。
――エニタイムはどの店舗も時間営業で、専用のキーをかざすだけで入退場が可能。また総合型スポーツクラブと異なり、土足でも入店できる。ほかにも室内には約台のカメラを常時設置し、警備会社と連携してセキュリティ対策をしている……など、パッケージがしっかりと定まっていますね。ただ元がアメリカのパッケージということで、そのまま日本ですんな
り浸透できたのでしょうか。
土屋 当社が日本で展開する上で、海外ではトイレとシャワーが男女兼用のところを、日本では当初から男女別に分けました。また海外では、スタッフがいる昼の時間帯はジムの鍵を開けていますが、日本では開けっ放しにせず鍵で開け閉めするようにしました。日本はエンドユーザーのマインドが海外と少し違う。時間で無人営業時間帯もあるので、安心感を持たせるためにほとんどの店舗でそうしています。
エニタイムの出店は当初から順調で、2012年3月に5店舗だったところから3年後には100店舗を達成。この出店攻勢を後押ししたのが、スポーツクラブとしては低い出店コストと損益分岐点だ。現在の出店戦略は首都圏ではオフィスビルや飲食店ビル、地方ではコンビニの上階など、ここでも総合型スポーツクラブと明確な差別化を図っている。
店舗拡大の原動力はビジネスモデル割安な出店費用と低い損益分岐点
――エニタイムは街中のいたる所に店舗を設け、それまで出店場所が限定的だったスポーツクラブのイメージを変えた部分も大きい。
土屋 店舗の平均面積は80〜120坪程度で、専用の大きな店舗を新築しなくとも、既存のビルのフロアを賃貸することで開業できる。総合型スポーツクラブを出店するには初期投資が10億〜15億円必要といわれますが、エニタイムの新店舗の場合、初期費用は1店舗につきFC加盟金や物件取得費も含めても約8000万円〜1億円でオープンが可能です。
――初期費用の内訳は。
土屋 ざっくりとですが、マシンが2500〜3000万円、内装工事が3500〜4000万円、物件取得費が1000〜1500万円くらいですね。あとはFC加盟金360万円とシステム関係の費用です。物件取得に関しては、土地を借りて上物を建てるFCオーナーはあまりいません。2億円かけて建物を建てて1店舗出すなら、建て貸しで店子に入って2店舗出店するというイメージですね。
――月会費の平均は7000円程度だと聞きましたが、損益分岐点となる会員数は何名ですか。
土屋 エニタイムの損益分岐点は500名程度。これはプール設備を持つ総合型スポーツクラブの5000〜1万名と比較しても、その低さが分かると思います。ちなみに現在のエニタイムの1店舗平均会員数は650名程度です。この営業利益率の高さが、当社のFC展開のスピードを上げられた非常に大きな理由だと思っています。
――1店舗で月350万円くらいが運営コストということですね。
土屋 そのうち2割ほどが人件費で、3〜4割が家賃。ロイヤリティは売上や規模に関係なく、1店舗につき月9万円の固定制です。残りは消耗品や水道光熱費、システム使用料などです。
――24時間営業だと人件費がかさむのでは。
土屋 スタッフは1店舗につき平均2〜3名程度で、24時間の内、標準的な店舗で10時〜19時以外(11時〜20時等、店舗によって多少異なる)はスタッフなしの無人営業となっています。また、専門スタッフが必要なスタジオやプールは設置していないので、人件費を低く抑えることができるのです。
――最近では、コロナ禍の2020年9月に開店した酒田店(山形県)が、人口約10万人の市にも関わらず、開業時に会員が1000名以上集まったことで注目されましたね。
土屋 総合型スポーツクラブは、その損益分岐点の高さから、政令指定都市などある程度マーケットが大きくないと出店できない。ですから地方都市だと、そのエリアに初めてできるスポーツクラブがエニタイムということも多いのです。「この町でもやっとジムに通える」ということで、たくさんの方に入会いただけていると思います。現在、エニタイムの店舗の内、約2割が人口10万人以下の町に立地しており、最小の商圏では人口2〜3万人でも出店できると見ています。地方に展開できたことでブランド自体が強くなり、成長の原動力になっている面も大きいと思います。
オーナーの15%占めるメガジーが出店を牽引
100店舗を達成した2015年以降、2019年に500店舗、2021年に900店舗と同社の出店は益々勢いを増していく。その成長ドライバーとなっているのが、FC加盟店の属性だ。現在、全国で約150社の企業が加盟しているが、その内の約15%が1社で10店舗以上を展開しているメガフランチャイジーで構成されている。加盟企業は飲食業や不動産業、携帯キャリアの販売代理店や電鉄会社の子会社など多岐に渡るが、コロナ前は年間5〜10店舗を出店するFCオーナーが20社ほどいたという。
既存オーナーの増店が一気に加速 メガフランチャイジーの割合は15%
――2015年以降、出店のスピードがさらに上がりましたね。
土屋 出店が急に増えたのは、我々の中で〝第二期〞と呼ばれる既存加盟店の2号店、3号店の出店が加速したことと、新規FCの出店が重なったのが理由です。FCオーナーが20社いたら、店舗が30、40店と出ていた状況でした。前段階として、我々は創業2年目から直営店の数字をすべて開示し、FCオーナーに向けセールスしていました。その中で「良いビジネスですね、やりましょう!」と言ってくれる人が増え、出店したFCオーナーの皆さんが、3カ月くらいの内に損益分岐点を超えるので、2号店、3号店を出していく。そうやって出店が加速していったのです。
――ほかにも時間ジムの同業他社がいますが、店舗数で一気に突き放している形ですね。他社との違いはどこだと思いますか。
土屋 まず同業他社は直営を主に出店しており、積極的にFC展開をしていない点が大きな違いだと思います。我々は直営だけでなく、150社のFCオーナーがいるので加速が違う。また、当社はFCオーナーの方々に「装置産業でなく、サービス業でやってほしい」と最初に必ず伝え、理解していただいた方だけに加盟していただいています。
競合は装置産業的な考えでやってきているところも多く、そこはエニタイムとは似て非なるところだと思っています。
――出店は基本的にドミナント方式で展開しているそうですが、その理由は。
土屋 まず会員の利便性を上げるためです。しっかり集客ができていて会員が多いけれど、店舗面積が小さいので全部は入りきれない。でもさらに入会したい方がいるなら、受け皿を作らなくてはいけません。その結果がドミナント出店につながっています。店舗が近接していることでマネージャーも複数店舗を兼務でき、人件費の効率も上がる。また販促も効果的にできます。そこに競合が入ろうとしても、ドミナントを作っている場所には入りにくいと考えています。
――御社では直営店の割合も約16%あります。直営店かFC出店についての選別はどのように行っているのですか。
土屋 当社の場合、直営もいちメガFCの立場ですから条件は同じです。各店舗がそれぞれのテリトリーを持っていて、そこから外れていればほかのFCオーナーが店舗を出せる。もちろん、直営も集客力の高い物件を探しますが、FCオーナーも物件を持ってくる。直営が店舗を出そうとしても、そのエリアにFCオーナーが既に別の物件を準備していたら、そこには直営は出さない。あくまでも公平にやっています。
――ここまで出店が拡がっても、直営の出店は止めない。
土屋 当社の直近期の売上比率は、直営が約6割でFCが約4割。我々としては今後も直営店を増やしていきたいと思っています。なぜなら、FCからいただくロイヤリティとともに、直営店の会員数を増やすことによって収益幅を広げられるという、2つのエンジンを持っている。これが当社の大きな特徴であるからです。
ホテルや病院内への出店が3000店舗の鍵
コロナ禍で出店スピードが若干鈍化したものの、前期に国内1000店舗の大台を超えた同社では、今後も出店の手を休めない。将来的な目標は3000店舗。一見すると出店過多に思えなくもないが、土屋社長は「多様な出店形態をとっていけば十分可能な数字」と話す。そのカギとなるのが、ホテルや病院といった他業態とのコラボレーション。既存施設へ出店することで相互メリットを高め、名実ともにナンバーワンのスポーツクラブチェーンを目指していくという。
コロナ禍でも年間約100店舗を出店 目標は国内3000店舗の達成
――当初、2022年3月期には年間180店舗出店の目標を掲げていましたが、結果的に店舗の出店となりました。この要因は何でしょうか。
土屋 理由は2つあります。一つは、好条件の駅前立地の居抜き物件があまり出なかったこと。居抜き物件自体はありましたがスペースが小さく、当社の店舗に適したものが取得できませんでした。もう一つは、コロナによる会員減などで大きな影響を受けたメガFCオーナーの方々が、既存店の回復に注力しているということです。とはいえ、「この時期に年間100店舗近く出店できているFCチェーンはほかにない」と声を大にして言いたいですけどね(笑)。
――今後もこのペースで出店を続けますか。
土屋 この100という出店数はボトムだと思っています。なぜならFCの数は変わっていないからです。今はメガFCオーナ ーの方々が、従来なら2店舗、3店舗出すところを足踏みしている。これは既存店の会員数が戻ってくればそこも回復するでしょうから、あくまでも前期をボトムと見て、引き続き出店し続けていこうと考えています。
――昨年11月にさいたま市のビジネスホテル内に新店舗を出店しました。また12月には山口県周南市の総合病院の敷地に出店し、体調改善が必要な人に対しトレーニングのサポートをするなど、出店形態も多様化しています。
土屋 インバウンド需要がなくてホテル業界も大変な時期。ですからそこにエニタイムを出店することで、宿泊客に加え一般の会員も増え、ホテルにとってもプラスになると思ってます。また病院内での出店については、成功モデルがしっかり出てくれば他の病院やクリニックも追随するでしょう。新しい出店形態はまだまだ作れると思います。
――昨年5月に御社が発表した調査結果では、全国約1900市町村の中に時間ジム未出店エリアが約1200あるということでした。
土屋 今後はその中から高集客エリアを厳選して出店していきます。エニタイムが出店すれば、そこに同業他社が出るのは難しくなる。また一方で、都会など高集客エリアのドミナントをさらに構築していくつもりです。
――長期的には全国3000店舗の出店を目指しているそうですね。この数はどのように導き出したのですか。
土屋 日本のフィットネス参加率は、当社が参入した当時でも長らく3%ほどと言われていて、100人の内、ジムに行っている人は3人しかいない状態でした。2018年にはその参加率が4%を超えた。当社が参加率を上げてきた自負はあります。先進国は参加率が二桁の国が多く、アメリカは約20%。それだけジムに行くことが普通になれば、マーケットも大きくなっていくでしょう。我々が出店することでその参加率を上げていく。そうすれば3000店という数字自体も、決して夢物語ではないはずです。
企業データ
社名 Fast Fitness Japan
ブランド名 エニタイムフィットネス
設立 2010年5月21日
店舗数 1002店舗【直営165店舗/ FC837店舗】(22年3月末) 111億6300万円(21年3月期)
売上高 130億円(22年3月期見込み)
上場市場 東証プライム
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