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旧態依然の体質からの脱却に成功|名畑

公開日:2022.11.18

最終更新日:2023.02.06

飲食店総合支援会社に変貌した業務用酒類卸業者外食業界で存在感を高めている「名畑」という会社をご存知だろうか。大阪に本社を置く同社は1936年に創業。長らく業務用酒類卸を生業としてきたが、後に三代目社長に就任する名畑豊氏が大改革を敢行。取り扱う商材を酒類以外にも広げ、飲食店を総合的に支援する会社へと変貌を遂げた。名畑社長を取材した。

※以下はビジネスチャンス2022 年10月号から抜粋した記事で、内容は取材時の情報です。

酒販業界で〝異端児〞と目される存在

 

名畑豊(なばた・ゆたか)社長 

1962年月日生まれ。大阪府豊中市出身。大阪大学経済学部卒業後、サントリーに入社。6年後、家業の名畑に戻り、会社の改革に着手。2007年9月、代表取締役に就任。

 

――業務用酒類卸業者の新しいモデルづくりに取り組んでおられそうですね。

名畑 弊社は今年で創業86年を迎えました。祖父が創業してから父の代までずっと業務用酒類卸一本でやっていましたが、私が入社したのを機に改革に着手し、酒類だけでなく、食品や消耗品といった、飲食店の運営に必要な他の品目も取り扱うようになりました。ほかに物件探しや、メニューをはじめとする各種営業ツールの作成などもお手伝いしています。また、メーカーから仕入れるだけでなく、自社で商品の企画も行っています。最近だと、飲食店用に開発したコロナ対策商品「いただきマウス」が非常に好評です。商品販売以外では、廃油の買い取りなんてこともやっています。廃油はお店側がお金を払って業者に引き取ってもらうのが一般的ですが、うちはお金を払って飲食店から買い取っているんです。昨年9月時点の数字になりますが、取引先数は飲食関係を中心に8145店舗になります。酒類だけしか扱っていなかった時代は、取引先に感謝されることはほとんどありませんでしたが、今は良い意味で使い勝手が良いので重宝してくれるところが多いです。関係性は180度変わりましたね。

 

――取引先は個店とチェーン店、どちらが多いのでしょうか。

名畑 大まかに全体の3割くらいが全国チェーンで、あとは地元密着でやっている中小チェーンや個店です。正確な数は把握していませんが、フランチャイズをやっているところもかなりあります。どこを意識的に増やそうというのはないのですが、数店から10店舗前後の規模でやっているような地場のチェーンの方が、我々は強みを発揮できます。逆に大手の全国チェーンはすでに仕組みがしっかりでき上がってしまっているため、我々がお手伝いできることはあまりありません。

 

――業務用酒類卸業界の中で、御社のように飲食店を総合的に支援しようという会社は増えているのでしょうか。

名畑 全国でも数えるほどしかありません。当社のように会社の理念にまで書いて取り組んでいるところは、おそらくほとんどないのではないでしょうか。少なくとも、関西では我々だけだと思います。

 

――業界では〝異端児〞のような存在なのですね。

名畑 そうですね(笑)。みんな儲かっていた時代の成功体験が忘れられないのだと思います。だから新しいことにもチャレンジしたがらない。以前は同業者に「一緒にやらないか」と声をかけたこともありました。例えば、我々は毎日取引先に商品を届けている関係上、「何がどれだけ売れたか」「どんな層に売れたか」といった生の情報をたくさん持っていて、メーカーに提供しています。これは大きな強みです。だからもっとこうした強みを活かして、単にお酒を売るだけの会社から脱皮しようと。しかし、誰も共感してくれませんでした。お酒だけ売って儲るのであれば、その方が楽ですからね。

 

――他の業界と比べて遅れている印象を受けます。

名畑 実際そうだと思います。だから最近は若者がどんどん減っています。今、酒屋で働きたいっていう若者はなかなかいませんよね。結構、大変な仕事ですし、労働時間が長い割に給料も安い。しかも取引先に求められるのはスピードと安さばかり。仕事にやり甲斐や喜びを見つけるのが本当に大変です。このままだと、いずれ本当に働き手がいなくなってしまうかもしれない。だから我々はそうなる前に、この業界をもっと魅力的なものに変えていこうと、いろいろと新しいことにチャレンジしているんです。おかげ様で、当社に関しては若い従業員がどんどん増えています。あまり大きな声では言えませんが、他社から転職してくる方もいます。我々を見て、真似る会社が1社でも2社でも出てくれば、業界全体の底上げにもつながると思います。

 

サントリー時代に飲食店の苦労を経験

 

――そもそも、名畑社長がこうしたことを考えるようになったきっかけは何だったのでしょうか。

名畑 私は大学卒業後、すぐにこの会社に入らずに、6年間サントリーでお世話になりました。入社から5年間は飲食店を回ってサントリーの商品を提案する営業の仕事に従事していたのですが、最後の1年だけ、自ら希望して業態開発をする部署で働かせてもらいました。そこで営業とは逆の立場の、飲食店側の仕事をさせてもらったのですが、これがとても大きかったですね。開業準備は本当に大変で、やらなければならないことが山のようにあります。市場調査や物件探しに始まり、仕入れ業者の選定、原価計算、広告宣伝等々、それこそ猫の手を借りたくなるほど忙しい。でもそんな中でも「これ買ってください」「今度、この商品が出ます」というメーカーの営業にも対応しなければなりません。伝票を整理するだけでもものすごい時間がかかります。実際にやってみて、私はパンク寸前になりました。でも、そのとき気付いたんです。「この煩わしさこそ、飲食店が本当に困っていることなんじゃないか」「この無駄をなくしてあげれば、飲食店は心の底から喜んでくれるんじゃないか」と。名畑でやるべきことを見つけた瞬間でしたね。

 

家業がボロボロの経営状態で愕然とした入社時

 

――実際には、家業に戻られてすぐに新しいモデルづくりに着手したわけではないようですね。

名畑 戻った直後の会社は、とてもではありませんが、それができるような状態ではありませんでした。それよりもまず、会社の改革をやらなければなりませんでした。経営がもう無茶苦茶で、組織の体をほとんどなしていなかったんです。当時は事故で急死した祖父に代わって父が社長をしていたのですが、営業しかやったことがなかったため、その辺りのことには無頓着で、別の酒屋に取られた取引先を取り返すために「一律5%値段を下げて出荷しろ」なんてことを平気でやっていました。「あそこは腹が立つから」という具合に、感情だけで商売をやっていたんですね。だから帳簿を見たら赤字商品のオンパレードです。給料が歩合制だったこともあり、営業を担当していた37名の従業員は、みんな自分の売上を上げることしか考えていませんでした。全員バラバラに動いていて、会社全体で「これを売りましょう」というのがまったくありませんでした。そもそも朝礼も会議もやっていませんでしたからね。とにかくひどい有様でした。だから私は入社してすぐ、経営の立て直しから始めました。ただ、いくら社長の息子とはいえ一番歳下でしたから、本当にやりにくかったです。

 

――お話を伺っているだけでも苦労が伝わってきます。歴史のある会社はいつか必ず直面する問題のようにも感じます。

名畑 在庫が合わないなんてこともしょっちゅうありましたよ。社員が勝手に持って帰って転売したりしていたんです。しかも、会社はそれを知っていながら何の対策もしていませんでした。

 

――まさに不正の温床そのものですね。

名畑 「営業に行く」と言って出かけて、さぼっている人も多かったです。一時期、「淀川の河川敷にはいつも名畑のトラックが何台も並んで停まっている」と、巷で評判になっていたくらいです。働いている側からすると、こんなラクな会社はなかったでしょうね。いくら放っておいてもお酒が売れていた時代だったとはいえ、あのままいっていたら、おそらく5年もしないうちに潰れていたと思います。今にして思えば、よく立て直したなと思います。

 

――改革の過程で、2003年には毎年2月に開催されている「食王(ショッキング)」も誕生しました。酒類卸業者が主体となったこうしたイベントは、他にあまり見かけません。

名畑 たまに似たようなイベントはあります。しかし、即売会のように売上がすぐに上がらないためか、みんな2、3回でやめてしまいます。ものすごい労力がかかるので割に合わないと思うんでしょうね。コロナ禍で2020年は休みましたが、当社はこれを20年で18回やっています。すでに来年の分の準備に取りかかっています。

 

コロナ禍で売上は130億円から76億円に

 

――酒類卸の会社の多くは、業務用だけでなく、一般小売りもやっています。中にはディカウントショップをやっているところもあります。

名畑 うちのように100%業務用に特化しているところは少ないです。

 

――一般小売りをやらないのには、何か理由があるのでしょうか。

名畑 やったらやったで、会社としてはそれなりに儲かるとはお思います。特にこの2年は、コロナの影響で家庭でのアルコール消費が一気に伸びましたから、なおさらです。でも私としては、正直なところあまり小売りに魅力を感じません。むしろ、緊急事態宣言解除後に、何カ月ぶりかに外に出て楽しそうにお酒を飲んだり、食事をしている人たちの姿を見て、「ああ、やっぱり外食業っていいよな」「これからも外食を応援したい」という気持ちが強くなりました。

 

――外食業界はこの2年半ほど、コロナ禍で苦しみました。御社も酒類卸を主体にしている以上、影響は避けられなかったと思います。

名畑 おっしゃる通りです。コロナ禍前の2019年9月期に約130億円あった売上は、2021年9月期で約76億円まで落ち込みました。何もなかったら、確実に150億円は超えていたと思います。

 

――ようやく居酒屋や飲食店が通常営業をできるようになりましたが、実感はどうでしょうか。

名畑 コロナ禍中と比べたらだいぶ回復してきてはいますが、売上が以前の水準に戻るまでには、まだまだ時間がかかると見ています。コロナが完全に収まったとしても、在宅勤務を継続する企業は一定数あるでしょうし、この2年間で早く帰る習慣がついてしまった人も多い。実際街中の労働者人口は以前よりも確実に減っています。業態にもよると思いますが、しばらくは8割から9割くらいの水準が続くと思います。

――取引先の数はどうなっていますか。

名畑 実は取引先数はずっと増え続けています。ただし、1件当たりの売上は減っています。物流コストを考えると取引先の数が増えるよりも、一軒当たりの取引額が増えた方が良いので、なかなか難しいところです。

 

――関西に限れば、「大阪・関西万博」やIRなど、起爆剤になりそうな話題が今後も控えています。

名畑 一時的な効果はあるでしょう。でも、それがそのまま続くかどうかは微妙なところだと思います。そもそも日本は人口が減っているうえに、一人当たりのアルコール消費量も少なくなっていますからね。世界的に見てもアルコールが敵視される傾向にありますから、外国人観光客頼みというわけにもいきません。だから会社としてはいろいろ手立てを考えなければなりません。

 

――今後の計画として、何か考えていることはありますか。

名畑 生鮮産品を除けば、酒類、食材関係のメニューは一通り揃っているので、システムの方にも手を広げようと思っています。具体的には月額で利用できるPOSシステムを開発しています。これがあればPOS導入にかかる初期費用を抑えられるので、取引先にも喜ばれると思います。あと名畑アカデミーという構想も実現に向けて準備を進めているところです。これは外食のことを全般的に学ぶための場で、いろいろなコースを作る予定です。お酒や料理のことはもちろん、開業や経営、接客などについても学べるようにする予定です。

 

――開業前はやることが山積みで、スタッフの教育にまで手が届かないという話はよく耳にします。そこをアウトソーシングできるのであれば、これほどありがたいことはないですね。

名畑 アルバイトが集まった時点でうちに預けてもらえれば、接客の基礎をしっかり教え込んでお返しします。スタッフを派遣してワインのイロハを教えることもできます。いずれは自前で研修店舗を持ちたいですね。とにかく、飲食店が抱える問題や悩みをすべて解決できる、そんな会社を目指して、これからもいろいろな商品やサービスを取り扱っていきたいです。

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