【連載 第7回】FC弁護士が答えるランチャイズ法律相談
公開日:2024.06.02
最終更新日:2024.06.02
※以下はビジネスチャンス2024年6月号から抜粋した記事で、内容は掲載時の情報です。
加盟者は本部に対して加盟金の返金を求めることができるか
フランチャイズに加盟する、本部を構築または運営する。いずれの場合も法律の知識は欠かない。「知らなかった」では済まされない失敗を防ぐために、法に基づく考え方を知っておきたい。チェーンビジネスに詳しい現役弁護士が、実例を交えてわかりやすく解説する。
Q:一旦支払われた加盟金は、どのような場合でも返金されないのですか。
1.多くのFC契約では「一旦支払われた加盟金は理由の如何を問わず返金されない」とする「加盟金不返還特約」が定められています。加盟契約後、本部は加盟者に対して、マニュアルの交付、開業前研修の実施、店舗デザインの提供、業者の紹介などの開業に向けての支援をするため、加盟金を返還するわけにはいかないからです。こうした理由から、加盟金不返還特約は原則として有効です。
2.店舗用の物件が確定した後にFC契約が締結されたならば、設問のような事態は生じませんが、FC契約締結後に店舗用物件を探す場合は、「加盟金は支払ったが店舗が見つからないので出店できない﹂ということが起きます。そうした事案で、開店できなかった加盟者から本部に対して加盟金の返金が求められることがあります。では、このような場合に本部は加盟者に対して加盟金を返金すべきでしょうか。
いったん契約が締結されると、本部としては加盟者に対し商標等の使用を許諾し、マニュアルの交付や開校前研修等により重要なノウハウを開示します。過去の裁判例でも、開業前研修の一部が終了していた事案において、出店に至らなかったとしても、加盟金の返還は認められませんでした(東京地裁平成18年6月8日判決)。特に、加盟店の都合で出店できなかった場合は、加盟者は商標やノウハウを利用することができたのだから、本部は加盟金を返還する必要はないとされています(東京地裁平成25年5月17日判決)。ですから、店舗用物件が見つからず、開業に至らなかったとしても、本部は原則として、加盟者に対して加盟金を返金する義務を負いません。
3.他方で、そのチェーンのブランド価値と比較して加盟金が著しく高額であった事案において、店舗が確定せず出店に至らなかった場合に加盟金の返金を認めた裁判例があります(神戸地裁平成15年7月24日判決)。この事案では、加盟金が800万円と高額であったにもかかわらず、本部が商標登録すらしていなかったことから、裁判所は、「本件加盟金不返還特約は『加盟金は如何なる事由によっても返還しません』という一切留保のない規定であるところ、本件加盟金が800万円にも及ぶことを考えると、本件加盟金800万円が対価性を著しく欠く場合にまで、事由の一切を問わずおよそ返還を求めることができないというのは、暴利行為であって公序良俗に反し、無効と解すべきである(民法第90条)。」として、本部に対し600万円の返金を命じました。
4.神戸地裁の裁判例から言えることは、本部としては加盟金の額を当該チェーンのブランド価値や、提供するサービス内容と比較して相応な金額に設定しておくべきだということです。また、本部としては、店舗候補物件を紹介したり、開業前研修を早期に実施するなどして、加盟者が早期に開業できるよう支援することが望まれます。なお、本部の一方的事情によりFC契約が終了した場合にも、加盟金返還請求が認められることがあります(浦和地裁平成5年11月30日判決)。
Profile かんだ・たかし
1963年大阪生まれ、早稲田大学法学部卒業。東京弁護士会所属。チェーンビジネス法務を専門とし、多くのFCチェーン、レギュラーチェーンの顧問を務める。現在、弁護士法人心斎橋パートナーズ代表社員。(社)日本フランチャイズチェーン協会研究会員・専任講師。(社)中小企業診断協会東京支部フランチャイズ研究会特別会員。経営法曹会議会員。(株)あさひ社外取締役。趣味は筋トレと格闘技。2023年度全日本マスターズレスリング選手権78㎏級3位。
「ケース別 法的交渉の実務」(共著・青林書院・2020年)「フランチャイズ契約の実務と書式(改訂版)」(三協法規・2018年)
「事例で分かる外食・小売業の労務戦略(増補版)」(第一法規・2018年)
「フードサービス店長法律ハンドブック」(商業界・2013年)「よくわかる!フランチャイズ入門」(共著・同友館・2011年)
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