【連載 最終回】ワークマン式ホワイトフランチャイズ経営論
公開日:2024.03.05
最終更新日:2024.03.05
※以下はビジネスチャンス2024年4月号から抜粋した記事で、内容は取材時の情報です。
〝わからない上司に決断を仰ぐことは無駄〞口出し・ノルマなしでメガヒット商品を次々展開
ホワイトフランチャイズ提唱し、実践するワークマン。近年の目覚ましい成長ぶりは、2018年に初出店したワ ークマンプラスのヒットが皮切りとなった。そしてその火付け役を担った同社専務取締役土屋哲雄氏の連載企画が今号からスタートする。初回はワークマンのFC本部としての経営論について語ってもらった。
PROFILE つちや・てつお
東京大学経済学部卒業後、三井物産入社。三井物産デジタル社長、三井情報取締役を経て2012年にワークマン入社。 19年専務取締役(現職)。WORKMAN Plusや#ワークマン女子など仕掛け、大ヒ ット。22年からは東北大学客員教授も務める。代表的な著書に「ワークマン式『しない経営』」(20年ダイヤモンド社)。
過疎地域への出店戦略
連載の最終回は、2024年以降のワークマンの出店戦略について話していきたいと思います。現在私たちは、「#ワークマン女子」の出店の本格化に向けて準備を進めています。同ブランドは作業服を扱わない業態です。
出店してから4年間で店舗まで増加し、今や全店が繁盛店で売上が140億円に上っています。今までは SC(ショッピングセンター)をメインに直営店を展開してきましたが、この4年間の助走期間をかけて加盟店用に標準化することができました。そのため、今後は加盟店の出店を積極的に行い、毎年30店ずつ路面店で出店していく予定です。
直営でSCに出店すれば必ず繁盛店になるのですが、加盟店と共に歩むことが我々の使命であるため、SCの直営店は40店舗で打ち止めにします。
また、近年は「ワークマンプラス2」という新しい業態を開発しました。この業態は「ワークマンプラス」×「#ワークマン女子」のハイブリット型の大型店舗です。ワークマンプラス2は人口3万人以下の地域にしか出店しません。
ワークマンプラス、#ワークマン女子の2業態は、それぞれ集客力が強い。しかしこれまでは、人口5万人以下の地域に2業態を合わせて出店し、既存加盟店の集客に悪影響を与えてしまったことがありました。そのためそれ以後は、この2業態を人口5万人以下の地域に一緒に出店することを禁止しています。
その結果、既存加盟店に迷惑をかけず、人口3万人の地域にも出せる業態の開発に取り組み、ワークマンプラス2ができました。まずは実験として3店舗出店をしたのですが、作業客から女性客まで幅広い客層を取り込むことができ、収益もかなり好調です。
人口3万人の地域をリスト化してみると170地域ほどあったため、これから年間10店舗を目安に出店していく計画を立てています。この業態を開発したことによって、新たに出店する余地を見出すことができました。
低価格の防災向け商品開発
数々の業態開発を行うことで出店戦略も多様になってきましたが、その根幹となるのが商品の幅広さです。ワークマンというブランドが多くの人に受け入れられているのは、圧倒的なコストパフォーマンスが理由です。
機能、価格、デザイン性に優れ、世間を驚かせるようなメガヒット製品を次々と生み出しています。客単価は大体2着購入で2500円程度。 この価格帯で他に競合するところがないため、売れ続けているのです。
そんな中でも現在力を入れて開発しているのが、旭化成アドバンスと提携して作り出した「シン・呼吸するインナー」です。これはUVカットやストレッチ性、接触冷感、吸汗速乾などの機能は当然ながら「吸放湿性」に優れた、夏を快適に導く機能性インナーです。この春からの発売になりますが同等素材を使用した他社と比べて業界最安値になっています。今後もインナーの開発に注力して商品数を充実させ、ゆくゆくは店舗内に下着売り場を設けて、売上の2割近くを占めるようにしたいと考えています。
また、腰痛を抱えている人やシニア向けにリリースした、サポーター内蔵型のストレッチパンツも今年の3月から発売予定です。ワークマンの利用者にはシニア層の作業者も多いため、作業をする時に腰の負担を軽減するサポーターを内蔵した商品にしました。それを1900円という価格で提供しています。このシニア向け商品についても充実を図り、将来的には女性向けの商品も開発する予定です。
さらに現在は、日本赤十字看護大学附属災害救護研究所と提携して、防災時に役立つ機能性ウェアや避難所の中で使えるキャンプ用テントの開発にも取り組んでいます。アウトドアシーンだけでなく避難所での利用も想定していますが、プライバシーを守ることができ、避難所での生活を少しでも快適にすることができると思っています。安価でいい商品を提供できれば家庭に備えることができ、いざという時に災害から身を守ることにも繋がります。
細かな管理をしない経営
こうした面白い商品が次々と生まれる背景は、製品開発部の従業員が商品開発を楽しみながら行っている点にあります。私が大切にしていることは、細かく管理をしようとせず、口を出さないこと。今と昔では価値観が違います。会社が目標を立てて3カ月おきにチェックするといった管理は、従業員がかえってやる気を無くしてしまいます。
自分が一番得意なことだったら口を出してもいいと思いますが、たとえば前述した日本赤十字看護大学附属災害救護研究所と提携したテントの話なんて、私がわかるはずありません。そのため、「あまり報告もしなくていい、出来上がったら見せてくれ」というスタンスでいます。わかっていない上司に説明をして、決断をしてもらうなんて無駄でしかないのです。
また当社には、在庫を残さないで済むように1年目は極端に少なく作るという仕組みがあります。商品を作ると大抵は「これだけは売る」というノルマを課せられ、その分の在庫を持たなければなりません。だから当社ではノルマを作らない。
そして1年目は商品量を極端に少なく作り、在庫を残しません。売れるようであれば2年目から在庫をたくさん持つようにしているので、失敗することがありません。そのため従業員が負担を背負わず、伸び伸びと商品開発をすることができるのです。
このように、私たちワークマンでは、常に目新しさを求め、それを商品にして加盟店と共有することで成長してきました。私たちが考えるFCビジネスは、加盟店の人生を豊かにする盤石なプラットフォームになること。そのためワークマンでは、3つのキーワードを掲げています。平均年収1300万円以上の「高収益性」。定年まで契約を更新する「高安定性」。子どもへ経営承継を希望し、子どもに人生を託せる「高信頼性」。この3つを維持すれば、人生をかけてチャレンジをする加盟店の覚悟に応えるプラットフォームを提供できるのです。この方針を24年以降も継続し、加盟店と共に歩んでいきたいと思っています。
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