【連載 第1回】FC研究会会長 山岡雄己の業界未来予測
公開日:2023.04.28
最終更新日:2023.05.25
※以下はビジネスチャンス2022 年6月号から抜粋した記事で、内容は掲載時の情報です。
第1回 VUCAの時代、日本のFCはどう進むべきか
同連載は、FCビジネス支援のプロであり、フランチャイズ研究会の会長を務める山岡雄己氏による「今後のFC業界の課題と対策」における洞察を全6回にわたってお送りする。経営コンサルタントの立場から見る今後のFC業界の進むべき方向性の鍵を探る。
第1回目は、FCビジネスのこれまでと、今後のあるべき姿をアカデミックな視点から考察する。
利益性より理念共有による価値創造を注目すべきはビジネス倫理
コロナによるパンデミックや東欧における地政学的リスクなど、グローバリズムの進展も相まって、世界規模で不確実性が増しています。このような先行きの見えない現状はまさに「VUCAの時代」として捉えられます。VUCAとは、変動性Volantility、不確実性 Uncertainty、複雑性 Complexity、曖昧性 Ambiguityの頭文字をとった言葉のことで、元々1990年代にアメリカの陸軍士官学校であるウエストポイントで軍事用語として使われていました。
視点を日本の産業界に転じてみると、「少子高齢化による労働力の減少」、「燃料や原材料高騰によるコスト構造の悪化」と同じく先行きの見えないVUCAの様相が見て取れます。また消費動向に関しては、2010年頃から消費を下支えしてきた定年後のシニア層の影響が大きく、団塊世代が後期高齢者年代に入り始めることに加えコロナで消費意欲が減退したことにより、緩い下り坂となることが予測されます。
さて、それでは本連載のテーマである日本のFCにフォーカスするならば、どのような方向性が考えられるでしょうか。これまでは、供給面に不安材料がない中で競合に打ち勝ち需要を確保するという「競争戦略」、あるいは迅速なチェーン展開により規模の経済性のメリットを享受するという「成長戦略」が重視されてきました。しかし、それらはもはや通用しなくなると考えられます。
そもそも他人資本を活用するFCは、チェーン展開のスピードを上げるための手段という側面があります。しかし一方で、同時に資本を異にするからこそ理念を共有することが重要だとも言えます。つまりこれからのFCは、「利益的なことよりも理念共有による付加価値創造や社会還元といった、ビジネスエシックス(企業倫理)に注目すべき」なのかもしれません。
さらにFCに関しては、昨今の「中小小売商業振興法」や「フランチャイズガイドライン」の改正が業界のあり方を見直す契機となっています。ただし、改正の主な論点は業界を代表する業態であるコンビニエンスストアをめぐる諸問題に端を発しており、そもそもコンビニエンスストアのFC契約自体が通常のFC契約からすれば異質であることを見落としてはなりません。今後このような論点に関しては、産業界と省庁のみで議論するのではなく、学際的な知見も反映することが必要になってくると思われます。そのためにも、アカデミズムの領域でも新たなチェーン理論の研究が喫緊の課題であると、個人的には考えています。
Side Note
「中小小売商業振興法」
商店街の近代化等を目的に制定された法律であるが、同法の中の「特定連鎖化事業」という規定においてFC事業は該当する。具体的には、FC本部は同法で定められた事前開示事項を法定開示書面として加盟希望者に交付し、説明することが義務付けられているなど、本部と加盟店間のトラブルを防ぐ目的で制定されている。
「フランチャイズガイドライン」
正式名称「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方」。独占禁止法違反行為の未然防止と、適切な事業活動の展開に役立てるために公正取引委員会により策定された。不十分な情報開示や欺瞞的顧客誘引、抱き合わせ販売、再販売価格指定、拘束条件取引、優越的地位の乱用などの行為に対し、どのような行為が独占禁止法上問題になるのか具体的に明記されている。
Profile 山岡雄己
1965年松山市生まれ。京都大学文学部卒。サントリー宣伝部を経て、2002年に経営コンサルタントとして独立。専門はチェーン・ビジネス、サービス・マーケティング、HRM(人的資源管理)。中小企業診断士。一社)東京都中小企業診断士協会認定フランチャイズ研究会会長。公財)川崎市民活動センターかわさき市民公益活動助成金審査委員長。法政大学経営大学院イノベーションマネジメント研究科(MBA特別コース)兼任講師。
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