【TSUTAYA ・蔦屋書店ほか】「TSUTAYA」既存800店を順次業態転換(前編)

公開日:2024.06.25

最終更新日:2024.07.31

※以下はビジネスチャンス2024年8月号から抜粋した記事で、内容は取材時の情報です。

多様性あるカルチャー発信基地に

 1983年3月に大阪府枚方市でスタートした「TSUTAYA」。直近ではデジタル化や物流問題など、時代の変化が同社の事業に大きな変革をもたらしている。「事業の核である書店を、新しい時代のライフスタイルに即した形で生まれ変わらせる必要がある」と、同社の鎌浦慎一郎社長は語る。

TSUTAYA ・蔦屋書店ほか (カルチュア・エクスペリエンス:東京都渋谷区) 鎌浦 慎一郎 社長

Profile かまうら・しんいちろう
1998年にカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社(CCC)入社。TSUTAYA事業を経て、2013年に武雄市図書館を立ち上げ、2014年に福岡市との起業支援「スタートアップカフェ」を開業。2016年に株式会社九州TSUTAYAの代表取締役社長に就任、CCCでの地域戦略事業を展開。2019年より TSUTAYA FC本部にてBOOK事業本部長、2022年にCCC執行役員 TSUTAYA事業管掌に就任(現任)。2023年10月よりカルチュア・エクスペリエンス株式会社代表取締役社長に就任(現任)。

 

 

 

 カルチュア・エクスペリエンスは、「TSUTAYA」「TSUTAYA BOOKSTORE」「蔦屋書店」のTSUTAYAブランドで、全国に約800店舗展開するFC本部運営事業を手掛けている。日本出版販売(以下:日販)とカルチュア・コンビニエンス・クラブ(以下:CCC)の合弁会社であるMPDを前身とする同社は、2023年10月に現社名に変更。書籍の物流改革とともに、基軸事業をこれまでのCD・DVDレンタルから、ライフスタイルの提案へと進化させる。「地域に交流を生む新しい時代の体験型書店」として既存店の業態転換を進めている。

「書店」を核とした体験価値提供 物流改革で粗利益率向上支援

――御社の前身であるMPDは、「TSUTAYA」事業における書籍の仕入れと物流や、EC物流受託事業の拡大などを担ってきました。昨年月にはFC事業も統合し、現体制を発足させています。これまでに培ったノウハウをFC店舗にも提供していくのでしょうか。
鎌浦 当社は流販一体を掲げ、出版社と書店の中間構造として存在していましたが、物販をされているFC加盟店は物流の問題を避けて通れません。そのため、AI発注の活用で需要の予測精度を上げて、納品の最適化をしています。本来、本は委託販売制度です。どんなに販売しても、日本の書店の粗利率は22%ほどしかない状況です。そこで、紀伊國屋書店と日販、CCCの3社で共同出資会社としてブックセラーズ&カンパニーを2023年10月に設立しました。エージェントのような形で、書店の粗利率を30%まで引き上げることを目標としています。22%から30%を実現するための、買い切りのような仕入れスキームの活用も思い描いています。売り切った分だけ、そのマージンが出版社から書店に渡る独自のシステムです。このシステムを各店舗に提案し、書籍の粗利改善を促すとともに、文具雑貨の売上を書籍の売上の半分まで増やしていきたい。
――ピーク時には「TSUTAYA」「TSUTAYA BOOKSTORE」「蔦屋書店」は、合わせて1000店ありましたが、現在は約800店にまで減少しています。
鎌浦 DVD・CDレンタル事業を中心としていた店舗は、残念ながら閉店したケースが多いです。事業の中心であったレンタルビジネスは想定以上の落ち込みを続けており、昔は月商1000万円を超えていたのが、今では300万円にも満たない状況です。しかし、現在もレンタルをしている店舗は約500店あります。そのため、基本的には書店を核としつつも、新しい時代に即した形で業態転換し︑生まれ変わらせる必要があると思っています。
――改革に舵を切った背景は。
鎌浦 2024年の物流問題とデジタルシフト。2つの変化が大きく影響しています。書籍販売は、動画配信サービスをはじめとするサブスクリプションやYouTubeなどの無料エンタメコンテンツ、EC販売の台頭に影響を受け、当社のこれまでのお客様もそちらに移行していきました。そこで、当社サービスの優位性として、リアルな場所での体験価値が重要であると考えました。
――これまでもスターバックスの併設など、コミュニティの場をつくることで書店を進化させてきました。
鎌浦 それをさらに進化させていきたいと考えています。
――TSUTAYAブランドの店舗のうち約9割がFCですが、加盟企業に対して業態転換のアプローチはどのように行っているのですか。
鎌浦 TSUTAYA店舗は、書籍レンタル品の在庫確保のために広い売場面積を持っています。これを新しい時代に合ったアイテムに変えましょうとお伝えしています。最近のトレンドでいえばトレーディングカードといった、時代に合わせた多様なアイテムを展開していこうということです。

新たな体験価値を提供する「代官山 蔦屋書店」

トレカ対戦席併設店は定期イベントが好評

――既存FCが閉店になる一方で、新たなFC加盟店も増えている。
鎌浦 昨年5月にオープンした茨城県の「TSUTAYA BOOKSTORE常総インターチェンジ店」は、戸田建設グループの東和観光開発さんが新たに加盟してくださいました。同店は児童書の売場と合わせて、お子様に遊んでもらえるスペースとセットで店舗づくりをしています。児童書の売れ行きが好調なおかげで、その他の本も計画以上に売れていますし、併設して販売している知育玩具も好調です。
――書店にコミュニティの中心としての役割を持たせ、さまざまな業態を併設している。
鎌浦 TSUTAYAの目指す未来は、地域に交流を生む、新しい時代の体験型書店です。最近のケースでは、「TSUTAYA Trading Card」というものがあります。TSUTAYA初の専門店として、2023年12月に錦糸町でオープンしました。TSUTAYA店内のレンタルのスペース跡に入れ、今では本や文具・雑貨に次ぐ3番目のアイテムになっています。3月に北千住に単独の2号店を出店しており、この店舗は約50坪あります。
――トレーディングカード販売は事業の柱になりえますか。
鎌浦 当社の調査では顧客の97%がECではなく、リアルでトレカを購入されています。そして、2020年段階では2000億円にも満たなかった流通額がここ3年で3000億円を突破しています。この成長性は非常に注目すべきだと感じました。
――ただ、トレーディングカード販売がレンタル事業に取って代わるには、売場が広すぎるのでは。
鎌浦 なぜ広い売場面積があるかというと、実際にトレカで遊んでもらうスペースを確保しているからです。導入店舗には標準60席の対戦席を設けています。相手の表情やリアクションが見える対戦は、インターネットよりもリアルな場所での体験に優位性があるということで、ご好評いただいています。
――単純に店舗でトレカを販売するだけではない。
鎌浦 それは当社がイメージするトレカ事業ではありません。およそ40〜50坪のスペースをリニューアルして対戦席を作っています。
――対戦席のある店舗数は。
鎌浦 現在、対戦席ありの TSUTAYAの店舗が178店舗(24年3月末時点)あります。直近1年間だけで、純増57店です。その中でも、「TSUTAYA 西友町田店」では月に100回以上のイベントを開催しており、多くの人が集まるコミュニティとなっています。トレカは大人だけでなく小さな子どもにも人気がありますので、安心感のある本屋のブランド力で支持していただいています。

【TSUTAYA ・蔦屋書店ほか】「TSUTAYA」既存800店を順次業態転換(後編)

 

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