【ドトールコーヒー】知名度活かした異業種連携・新業態開発に注力(前編)
公開日:2023.11.25
最終更新日:2024.01.04
※以下はビジネスチャンス2023年12月号から抜粋した記事で、内容は取材時の情報です。
FC1000店舗のカギは立地創造力
カフェブランドとして43年の歴史を持ち、チェーン全体で1067店舗、うちフランチャイズだけでも820店舗(ともに23年8月末時点)を有するドトールコーヒーショップ。日本を代表する喫茶チェーンも多分に漏れず、直近3年間はコロナの影響で苦戦を強いられた。ただ今年に入り、オフィス回帰の影響もあってビジネス客を中心に客足が戻ってくるなど、業績は復調の兆しを見せてきている。ポストコロナを迎えた今、改めてチェーンをどう舵取りしていくのか。(聞き手:本誌編集長 中村裕幸)
PROFILE ほしの・まさのり
1959年新潟県生まれ。1983年にドトールコーヒー入社。一般卸営業職を経て、店舗開発業務に従事。2000年6月に取締役に就任し、2017年4月より現職。 2008年5月よりドトール・日レスホールディングスの代表取締役社長も兼務。
ドトールコーヒーの23年2月期売上高は760億円(連結)。これはコロナが直撃した21年期の585億円、22期の666億円から急伸している。その要因は、コロナ沈静化による店舗回帰。同社の売上比率で38.7%を占める直営店舗事業の伸びが大きく寄与している。
ポストコロナで業績急回復 高単価商品投入し収益性も確保
――今年の5月に新型コロナウイルスが5類に移行し、街や飲食店にも人が戻ってきました。御社でも今年の1月以降は全店の売上が2桁%で回復し続けています。
星野 数値が回復した要因で言うと、まずはコロナの規制が緩和されたことによって人流が回復したことが大きいです。また昨年の12月に、商品の価格改定を行った部分も寄与しています。ブレンドコーヒーでいうと店内飲食が224円から250円(税込)と、1割程度の値上げとなりましたが、当初シミュレーションしていた以上に客数ダウンがなく、そのまま売上として積みあがっているという状況です。
――価格改定をせざるを得ない原材料の高騰は、外食全般でも頭の痛い問題です。
星野 コーヒー豆もさることながら、もう乳製品から卵から、小麦まで、何から何まで上がっているわけです。当社は基本的に、そのまま売価に転嫁するということはやらないと宣言させてもらっているので、物流の改善や自社倉庫の集約といった企業努力によって飲み込めるものは飲み込む形にしています。正直、会社の利益ベースでは数億円単位でへこんでいると思いますが、まずは店舗の収益を担保するために、高単価のシーズナルメニューを提供させていただいています。
現在の客単価は441円ですが、季節商品のミラノサンド牛カルビであれば590円(税込)、牛カルビに信州味噌ジンジャーや辛子明太高菜をトッピングすれば640円(税込)、さらにチーズをトッピングすれば690円(税込)というように、これまでなかった600円台のしっかり利益が取れる商品設計をし、そこをカバーしていった形です。
――一方的に本部から値上げを発信しては、FCオーナーからの反発もありますしね。
星野 ですからその際も、事前に全加盟店さんのPLシミュレーションをしました。「Aさんのお店は、4ポイント客数が減ったら価格改定しても利益が変わらなくなっちゃいますよ」みたいな形でです。そこから来客数が落ちないために今やるべくことは何かというのを、個店ごとに検証していったのです。
周りがやっているから値上げするというのは、絶対長続きしないはずです。まずはもう一度、お客様に価値を提供できる状態になっているかを見直していただこうと。でもありがたかったのは、ほぼすべてのオーナーにご理解いただけた。スペックをダウンさせたり、ステルス値上げなどは絶対やってはいけないと考えています。
――ほかにもコロナ禍は、それまでの営業スタイルが通じなくなるといった、店舗側のジレンマになることが多数起きたと思います。
星野 特に都心のオフィス街の店舗は顕著なのですが、夏ごろまで開店から10時半までのモーニングの時間帯の戻りが遅くなっていました。今はだいぶ戻ってきていますが、少し前まではコロナ前に比べて人流が9割くらい戻ってきているのに対し、既存店のモーニング時間帯の客数は8割しか戻っていなかった。この10%のギャップを調べていくと、お客様の習慣が変わってしまっていた。
かつては、朝ドトールに寄ってコーヒーを飲んでパンを食べてから「さあ行こう」だったのが、テレワークが普及したことで「なくてもいい習慣」になってしまったのです。
――店舗に寄る必要性が薄れてしまった。
星野 イートインの需要が薄れたのは、外食の皆さんすべて同じ状況だったと思います。ですから企業さんによっては、いち早くテイクアウトをやったりデリバリーをやったり、さまざまな施策をおとりになられて。当社でも、そういうことをすぐやるべきではないかという声もあったのですが、私は「それはやらない」と。
なぜなら、お客様から見たときにドトールコーヒーショップというのは、テイクアウトのお店というよりもイートインのお店というイメージがやはり強いのだろうと。実は全商品テイクアウトできるのですが、ここでいきなり「テイクアウト!」と特化して強化するのは付け焼き刃になります。またもともと培ってきた、ドトールコーヒーショップが持っているお客様に対するホスピタリティというものも発揮しきれないだろうと。
やっぱり座っての空間があったり、接客があったり、我々が客席という空間を持って営業していることは、全体的なムードとしての価値があるからこそのことです。そして、その強みというものを最大限に活かしていかなければいけない。
――あくまでも平常時の営業スタイルを心掛けた。
星野 とにかく私の方から加盟店さんへお伝えしたのが、「尺蠖(せきかく)の屈するは以て伸びんことを求むるなり」ということ。中国の易経の中に書いてある言葉なのですが、今は辛いけど、大きく発展をするためには耐えようというものです。2年間会社は赤字でしたし、加盟店さんもずいぶん苦労されたと思うんですが、幸い本部の財務体制もしっかりしていたので、むしろその時だからできることに目を向けました。
コロナ禍で身動きが取れないことを逆手に取り、星野社長は改めて自社内の体制強化を考えた。中でも一番に掲げたのが、パート・アルバイトスタッフとの連携強化だ。全国で約3万人の働くスタッフに向け、改めて理念の共有を図ったという。
スローガンを刷新「すべてを支える」ブランドへ
――コロナ禍は対外的な営業スタイルはそのままに、チェーン内の改革を進めていったと聞きます。具体的にはどのようなことを行ったのですか。
星野 店舗の改装、そしてパートナー(※パート・アルバイトスタッフ)とのリレーション強化です。普段忙しく、業績もそこそこという環境ですと、店舗のちょっとした改装やサービスレベル向上のための育成に目が向かなかったり、どうしても力が入らない。そこを本来あるべき姿に戻す努力として、直営店は積極的に改装を行い、加盟店さんにも可能な限り呼びかけをしました。
またパートナーの皆さんに今一度「自分たちは素晴らしいことをしているんだよ」と思ってもらえるよう、今年の2月にブランドスローガンを出しました。
――どのような内容なのですか。
星野 「すべての今日を、支えていく。」というスローガンです。過去にもブランドスローガンは何回か出しており、一貫したコンセプトは「さりげなく小粋」。今回もそこから外れないことを前提に作ったのですが、時代やマーケットの変化によってお客様がショップに求めるものが微妙に変わってきています。またこれまで欠けていた、働いてくださっているパートナーに対するリスペクトの部分を盛り込みました。色んな方の色んなシーンを支えているのがドトールコーヒーショップであり、それを支えているのが皆さんであると。
――実際、これだけのチェーンを維持するために現場で働いている方々の力は大きいですからね。
星野 実は数年前まで、私自身社内で「選ばれるコーヒーショップにしなければだめだ」ということを発信してきました。ドトール「で」いいではなくてドトール「が」いいというようにです。
ドトールコーヒーショップの客層は年齢層も幅広いですし、男女比率も女性が若干多いぐらい。つまりノンセックス・ノンエイジのお客様に来ていただいているため、店舗づくりやサービスオペレーションも幅広い層に対応できるものにしています。
しかしその一方で、パートナーの方たちが1日の仕事の中で行っている一つ一つの作業について、大したことないと言われてしまうことがあります。また、スターバックスさんのように、お客様に対しての表現もとんがっているわけではないですし、何となく駅前のどこにでもあるから便利で値段も高くないといったぼやけた部分があった。
でも、ほかの会社さんを見るとそんなことはない。たとえばユニクロさんであれば、「ユニクロでいいよね」と言えば、別に悪い意味ではない。むしろいい意味で「でいい」と言い切れるブランドって、それはそれですごいことだと。
――「すべてを支える」ためには、汎用性の高い店舗づくりが重要であるということですね。
星野 働いていただいている方々に誇りを持ってもらうことによって、接客のレベルも上がる。嫌々やっているのか、喜んでやっているのかによって表情は変わりますから。それを「笑顔を作りなさい」とか「挨拶をちゃんとしなさい」とか命令でやるのではなく、パートナーの方々の内面から湧き出る部分で、自然と笑顔になってくるということをやろうと。
ただ精神論だけでもダメなので、先ほど申したように店舗内の環境も変えていきました。ドトールコーヒーショップは立ち飲みのセルフスタイル。いかに合理化、効率化させていくかで作り上げてきたモデルになっています。ですから、スタッフの更衣室も一番最後に余った場所を使うわけで、店の隅っこであったり、場合によっては倉庫代わりになっているところを使うケースもある。夏は暑いし、冬は寒い。そこで複数の方々が着替えたり休憩をする。そういう環境の中で「じゃあ30分休憩とってください」と言われても、休憩にもならない。職場に入った瞬間に、「はぁ、今日もやんなきゃダメかあ」みたいな感じになるのではないのかなと。
――御社のパートナースタッフは学生の方も多いでしょうから、ほかにいい条件のバイト先があれば、気軽に切り替えられてしまう可能性も高い。
星野 大学生は比較的長く働いてくださいますが、当然卒業されると就職するわけです。その時に、アルバイトは辞めるけど、今後はお客様としてドトールコーヒーショップに来てほしい。一番身近でドトールの良さを分かってもらえているのはパートナーであるからです。
――将来の顧客を作っていくことにも繋がる。
星野 新規顧客を取り込んでいくことはすごく大事ですが、何で来店してもらえないかを問いかけることも難しい。色んな理由があって来ない訳ですから。私の個人的な考えですが、よく「Z世代に何を提供したら来てもらえるんだ」という議論があります。もちろんそれも大事ですが、それ以前に、すでに来ていただいているお客様のリピート率を高めるという方が大事ですし、着手しやすい。
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