【連載特別編】高論卓説〜業界のキープレイヤーが語る〜(後編)
公開日:2023.10.25
最終更新日:2023.10.25
※以下はビジネスチャンス2023年10月号から抜粋した記事で、内容は取材時の情報です。
売上よりもオーナーの意思を重視した業態転換 ECは店舗利用に繋げるためで〝直販直送の売上は恥〞
現在のワークマンの店舗数は全ブランド合わせて995店舗。その内訳は、「ワークマン」が433店舗、「ワークマンプラス」が516店舗、「#ワークマン女子」が37店舗、「ワークマンプロ」が9店舗だ。中でも近年のワークマンの目覚ましい成長は、客層を一般まで広げたワークマンプラスが大きな要因となっている。そのため同業態に業態転換をすれば売上を伸ばすことは容易であるが、未だにワークマンのままの店舗も多い。なぜなら、その経営戦略も加盟店ファーストを貫いた結果だからだという。
業態転換に効率を求めない 繁盛していない店舗から改装
土屋 ワークマンの営業時間は7時から20時と長いです。そのためご夫婦で上手く分担してもらって、15時になったらお子さんを保育園に向かえに行ってもらう。「ワークマンの親御さんは保育園に一番に迎えに来る」、それがうちの誇りなのです。そして20時に店を閉めて、20時5分に帰ってもらうことが理想ですね。21時まで仕事して帰ると、お子さんが親の背中を見て、大変だと思って後を継いでくれなくなってしまいますから。お父さんとお母さんが揃って食事をしているのを見ると、「これはサラリーマンより良い暮らしだ」と思ってくれる。
人柄の良い親御さんの元には、人柄の良い息子さんや娘さんがいるので、そのまま継いでもらうことが理想の形なのです。現在、親元の近くにいたお子さんは、ほとんど引き継いでくれていますね。
金子 近年、「ワークマンプラス」や「#ワークマン女子」の反響をよく耳にします。それだけ反響があるなら、通常だったら業態転換を積極的にするように思います。しかし、ワークマンのままの店舗もたくさんありますよね。
土屋 確かにワークマンプラスに改装した方が、売上は確実に上がります。しかし、一般客層の多いワークマンプラスにすると、ワークマンに比べて駐車時間が3倍長くなります。そうなると作業服目当てのお客さまを追い出すことになってしまう。ですから、作業服がメインのワークマンも必要なのです。
普通売上の良い店舗をさらに伸ばす方が簡単ですよね。でも、私たちは効率を求めるのではなく、希望を聞いた上で繁盛をしていない店舗を優先的に改装してきました。また、子どもが3人いてこれから教育費が掛かるという人には、改装を勧めて法人営業のやり方を教えてガッツリ稼いでもらえるようにしたこともあります。
しかし、加盟オーナーの中にはご高齢のご夫婦で子どももすでに独立し、「今さら」という方もいます。それならそれでいいのです。利益至上主義であればどこも改装するでしょうけど、私たちはあくまで加盟オーナーの考えを尊重しているのです。
お客様のために戦う時は戦う ことなかれ主義の姿勢を改善
金子 ワークマンのFCビジネスがこれだけ上手くいっている決定的な理由が何か、土屋専務はどうお考えですか。
土屋 それは、やはり加盟店ファーストでしょうね。四半期利益を出すだめだったら本部の利益ファーストになると思いますが、私たちが目指しているのは”100年の競争優位”。そのためには加盟店との永続的な共存共栄が不可欠なので、加盟店ファーストであることを徹底し
ているのです。
うちではECもやったりしていますが、直販の売上は恥だと思っています。ECで商品を見つけると、まずどこの店舗で受け取りするかを指定するシステムになっています。そして「意外と近くだから直接店に行こう」と、離脱してもらえるのが一番良い。また、店舗在庫を確認して取り置きの予約に使ってもらうのも良いですね。それで店舗の在庫が減りますから。一番ダメなのは直販直送です。加盟店に何のプラスにもならないので。
金子 本当にどこまでも加盟店ファーストですね。その経営姿勢は土屋専務がワークマンに入社されてからですか。
土屋 ワークマンの理念は、創業者である叔父が築き上げたものです。私はもともと商社で働いていたので、四半期利益至上主義でした。入社した当初、あまりにも本部の地位が低過ぎることにびっくりして、加盟契約書を書き変えようとしたくらいですから。全部書き変えたいと思っていましたが、数年やってみて、このやり方が100年の経営には良いのではないかと気付けたのです。
ただ当時は、加盟店の顔色を窺うような幹部もいっぱいいました。それまで加盟店と揉めたことがなく、裁判が一度もないことを自慢していたのです。でもそれは、ことなかれ主義になっているだけじゃないのかと。
当時のオーナーの中には、お客様に挨拶もしない方もいましたから、サービスレベルを上げるためにも、お客様のために戦う時は戦うという姿勢に変わりました。あまりにも居心地の良い会社になり過ぎていたことを反省して、加盟店側に偏った契約については変更しました。そして本部と加盟店が共存共栄していくために、より適切な関係性を築けるようになったのです。
金子 今回土屋専務のお話を伺い、オーナーの生活をしっかりと安定させて安心感のある環境を提供することが、一番重要だと再認識しました。我々もオーナーが輝ける労働環境を作るために何ができるのか、改めて意識をしていきたいと思います。
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