【ロイヤルホールディングス】多角的なポートフォリオ経営のカギはDX(後編)

公開日:2023.05.24

最終更新日:2023.05.24

※以下はビジネスチャンス2023年6月号から抜粋した記事で、内容は取材時の情報です。

てんや、ロイヤルの二枚看板海外出店が成長ドライバ

 ロイヤルグループの内で、成長事業と位置付けているのが外食の「てんや」だ。21年には総合商社の双日と資本業務提携したこともあり、好調な海外のてんや事業を加速させている。また今年3月には、ロイヤルホストのシンガポール進出に向けた現地法人企業設立の合弁契約を締結。さらにイギリス発のカフェチェーン「COSTA COFFEE」の店舗運営に向け合弁事業会社も設立するなど、海外展開と新ブランド展開の双方が柱となっていく。

菊地 唯夫 会長(57)

Profile きくち・ただお

  1965年神奈川県横浜市生まれ。88年早稲田大学卒業後、日本債券信用銀行(現あおぞら銀行)入行。2000年ドイツ証券を経て、2004年ロイヤル(現ロイヤルホールディングス)入社。07年取締役総合企画部長。10年代表取締役社長、 16年代表取締役会長(兼)CEO。19年から現職。16年から2年間、日本フードサービス協会会長を務めた。20年より京都大学経営管理大学院特別教授。

 

「てんや」双日との業務提携で加速 「COSTA COFFEE」のFC権を取得

--外食事業内で唯一FCの形態をとるてんやですが、改めてグループに招いた経緯を教えてください。
菊地 私が2004年に当社に入った時、ロイヤルグループをもっと成長させていくためには、フランチャイズの仕組みなどを使って成長できるドライバを作っていく必要がありました。てんやはインバウンドや高齢者との親和性もあるし、ファストフード的な位置付けが出来るので、成長モデルを作りやすい業態だったというのが当時の判断です。

--現在は、国内で次世代型店舗を作ったり、海外では5カ国で32店舗を出店するなど、てんやが成長ドライバとなっています。双日さんとのパートナーシップで海外出店は加速できそうですか。
菊地 日本の人口減少は厳然たる事実なので、海外には相当目を振り向けないといけません。日本も含めたてんやの平均月商世界1位は香港、第2位はシンガポールと、海外での展開が非常に上手くいっています。そこを伸ばすためにも、自分たちが資本と人を持っていき海外事業を拡大する。そのためのパートナーが双日さんです。

--ロイヤルホストのシンガポール進出に向けた現地合弁法人も新たに設立する予定です。
菊地 まず21年にロイヤルホールディングス51%、双日49%の出資で、「Royal Sojitz International Pte.Ltd.」という現地法人を設立しました。この会社と現地の「YOTEI PTE.LTD.」と合弁で、今回「Royal Food Services(Singapore)PTE.LTD.」の設立に関する合弁契約を締結。4月中に法人を設立する予定です。これはRoyal Sojitz International Pte.Ltd.が645%、YOTEI PTE.LTD.が35%ですから、当社グループの事業という形になります。双日さんが第1層にあって、YOTEI社が第2層にあり、3社でやっていきます。

てんやの海外出店も加速(写真はTENYAフィリピンマガリャネス店)

--YOTEIさんは現地の「てんや」のフランチャイジーですね。
菊地 すごく良いパートナーです。てんやにとって、フランチャイズはもっと可能性があると思っています。これまでコロナで静かにしていましたが、今後は動いていくと思います。

--国内では新たにカフェ事業も始められます。COSTA COFFEEは、世界で約4000店舗を展開するヨーロッパ最大規模のカフェチェーン店です。18年にコカ・コーラさんが買収されて以降は、日本でも親しみが出てきました。フランチャイズ権を御社と双日さんとで取得されましたが、御社側の狙いは。
菊地 カフェのようなカジュアルな業態は、多分これから外食産業の中でも数少ない、伸び得るものだと思っています。双日さんとコーラさんは非常に強い関係があるし、我々もコーラと関係があるので、新しい座組でやるというのは面白いなと思います。

--発信はどちらからですか。
菊地 うちは後からです。我々は得意な食であるとかオペレーションのところで協力させていただく。あくまで双日さんがマジョリティです。ご承知の通り、ロイヤルは70年もこの業界でやってきた会社で、イメージ的には”濃い”会社です。こういうカジュアルなカフェは濃い会社がやっても上手くいかない。もちろん取り組みとしてはしっかりやっていきますが、前のめりになりすぎず、少し距離を引いてやるというのが大事だと思います。

--コンビニ含めかなり露出が行き渡ってるブランドなので、どういう見せ方をされるのか気になります。ロイヤルさんらしい付加価値を店舗で出していくのか、期待ですね。
菊地 現場での付加価値を上げるのは当社が得意ですが、会社としてマネージしていくのは、たぶん我々より双日さんが得意じゃないですかね。軽やかに成長していってもらいたいというのが、私の期待です。

新たな成長への試金石となる「COSTA COFFEE」

欧州最大規模のカフェチェーンとFC契約 将来に向けて社内勉強会も活発化

 中期経営計画では2024年度の売上目標を1360億円と、コロナ前の同水準までの回復を目指している。コロナ禍を経て企業経営も外食産業も過渡期を迎えている今、菊地会長は企業経営もビジョンからパーパスへ変化させていくと話す。

従業員も顧客と同じ満足度をビジョンからパーパス経営へ

--今お話のあった”濃い”イメージの部分ですが、「ロイヤルらしさ」で今後継承していく部分と刷新していく部分を会長はどうお考えですか。
菊地 実は昨年4月から、「ロイヤルの10年後を考える勉強会」という会を僕の方で主催しています。従業員数名80の応募があり、1チーム数名の3チームに分け、4〜9月で2チーム、10〜3月で1チームとし、月1回分実施しています。最初の15分で受講者が4〜5名ずつ数班に分かれ、その回ごとのテーマでグループディスカッションをし、その後約15分で全員に向けて発表をします。勉強会は全6回の構成で、最終回は4名ずつの班にて「ロイヤルの10年後」というテーマの企画を発表します。
 たとえば、ロイヤルが10年後に残すべきもの捨てるべきもの、配膳ロボットは是か非か、Z世代と高齢者をどのように両方取り込むか、などです。そこで結構テーマになるのが、ロイヤルらしさなんです。ロイヤルらしさの根本は、お客様のことを第一に考え、責任感も強くコミットメントがあること。ただ裏を返せば、自己犠牲を強いてしまうケースもあります。お店で表現されるロイヤルらしさは継承しなくてはいけませんが、従業員もお客様と同じ満足度を感じてもらいたい。無理をし過ぎるのは、これからの時代に照らし合わせると持続性がないと思います。

--受講される方々は、役職など関係なく募っているのですか。
菊地 参加したいという人はみんな参加させています。和気あいあいとみんな色んなことを話しています。宇宙食やりましょうとかね(笑)。またこれとは別に、「R-セッション」というグループ交流会も開催しています。ここでは参加従業員によるディスカッションとパネルディスカッションを行いますが、パネルディスカッションは僕がモデレーターとなり、ほかには社長と会場ごとで3名の執行役員が参加します。先日は広島で、次は鹿児島でやりますが、全国8カ所で開催します。

グループ交流会「R-セッション」の様子

--会長が全国を回られるんですね。
菊地 コロナで経営と現場の距離感がもの凄く広がってしまった。だから昨年1年間は、この距離をいかに戻すかをやっていました。たとえば今は、2週間に1回、「ロイヤルチャンネル」という動画配信も行っています。ここでは、私と社長が毎回ゲストを1名呼んで話をします。直近の会では、男性の育休を企画している人事担当の女性がゲストでした。経営と現場の距離をいかに近くするかが、今の問題意識です。

毎回、社内の人材をゲストに招いて話をする「ロイヤルチャンネル」

--御社に入社される方は、ロイヤルのどこに惹かれて来られるのでしょうか。
菊地 昔はリーディングカンパニーというイメージが強かったと思います。でも今は、質を大事にするというところがキーワードかもしれません。我々も昔は企業経営に「ビジョン」という言葉を使っていましたが、今は「パーパス」と言っています。
 持論ですが、ビジョンという言葉には市場や人、環境や資源が無限であることを前提にしていましたが、近年それが有限なものだと世界の人たちが気付き始めた。そして有限性が支配してくると、1000店目指します、1兆円目指しますっていうこと自体が空虚なものに感じますよね。それよりも、社会でどういう役割を担ってるんだという価値観の方が上がってきている。それがビジョンからパーパスにシフトしている背景ではないでしょうか。

--どの産業にも当てはまることですね。
菊地 コロナで人や社会の分断が起きて、それを回復させるためには信頼関係が必要です。京都大学でゴリラを研究している山極壽一前総長が言っていたのですが、人間にある五感のうち、完全に共有できるのは視覚と聴覚だけで、嗅覚や触覚、味覚は共有ができないらしいのです。
 だから本当の意味で人間が信頼関係を構築するには、共有できないものを共有する。つまり一緒に体験することで初めて信頼関係が生まれるという訳です。ではそれをどこで作るかと言ったら、やはり食の世界になる。恐らくこれがこれからの外食産業の役割で、パーパスであると思っています。(前編はこちら)

会社概要

会社名 ロイヤルホールディングス株式会社
設立 1950年4月
資本金 178億3013万8262円
売上高 1040億1500万円(22年12月期)
所在地 東京本部:東京都世田谷区 本社:福岡市博多区
事業内容 外食事業(ロイヤルホスト・天丼てんや・シズラー・シェーキーズ等)、コントラクト事業(空港・高速道路・ 百貨店内のレストラン&ショップ等)、ホテル事業(リッチモンドホテル)、食品事業

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