【メガフランチャイジーの経営哲学・シュベール】“七転び五起き”の店舗投資経営

公開日:2025.03.19

最終更新日:2025.04.01

※以下はビジネスチャンス2025年4月号から抜粋した記事で、内容は取材時の情報です。

創業は喫茶店。直営とFC合わせて店舗を展開 別法人設立しFC多角化と譲渡案件で店舗数を拡大

 シュベールは、自社業態の喫茶店「シュベール」を経営する一方で「サブウェイ」「プロント」「かつや」など、10種に上るFCブランドに加盟し、飲食事業をメインに展開。現在は直営4店、FC38店の計42店を運営している企業だ。同社の本橋史郎社長は、父親で先代の本橋功氏が創業した会社を弱冠28歳で引き継いで25年。チャレンジ精神で次々と新業態店舗の運営に取り組んできた。その結果、これまでに投資してきた店舗数は、なんと100店近くに上るという。店を出しては閉めての繰り返しの歴史は、まさに“七転び八起き”ならぬ“七転び五起き”だった。本橋社長にこれまでの奮闘を伺った。

シュベール[東京都練馬区] 本橋 史郎社長(53)

Profile もとはし・しろう
1971年10月生まれ。東京都練馬区出身。1999年、28歳のとき社長就任。当時は直営を軸に運営をしていたところ、FCに注目し展開。現在は直営店とFC店合わせて42店舗運営している。

(1)歴史 創業から30年間は直営展開。2000年頃からFCに切り替え

──御社は外食FCをメインに多ブランド展開で、事業領域を拡大されていますね。
本橋 現在シュベール、本橋事務所の2社を中心にグループで9社の運営をしています。当社は、もともと自社業態の喫茶店﹁シュベール」の展開からスタートした会社です。1990年代からFC加盟を始め、現在は「サブウェイ」12店「プロント」5店をはじめとして、「かつや」「珈琲館」など外食FCが主体になっています。直営5店も含めて計42店舗を首都圏で展開中です。シュベールは『変わらない居心地の良さとおもてなしの心』、本橋事務所では『今日がたのしい。明日がうれしい。』を企業コンセプトに掲げています。また、不動産会社で賃貸経営もしています。M&Aした愛知、静岡などの別会社で、給食や介護事業も行っています。
 年商は、主力の外食FC・直営部門で35億円、別会社が10億円、グループ全体で45億円です。正社員38人、パート・アルバイト550人(別会社除く)が在籍しています。
──喫茶店シュベールの誕生は1967年。本橋社長の父である本橋功氏が創業されたそうですね。
本橋 シュベールは、「あなたの街の喫茶店」をコンセプトに、自家焙煎の珈琲、本格パスタを中心としたメニュー展開をしています。東京西部・多摩・埼玉を中心に出店し、一時は最大15店まで拡大しました。父は喫茶店の他にも、居酒屋、パブなども直営で出店し、1990年頃には20店舗まで増やしました。
──その後FC加盟に転じましたね。
本橋 創業から約25年間は直営のみでしたが、1994年にサブウェイのFCに加盟。それを皮切りにFC加盟による多店舗化に舵を切りました。1999年には28歳で私が社長に就任し、その頃から直営店の出店テナントの建替えに伴う退店が増えてきました。特に、東京オリンピック・パラリンピックの開催が決まった2010年以降の再開発の影響は非常に大きかったです。各地の駅前で再開発の話が上がり、それによる立ち退きで、店舗入れ替えが発生。それを機に直営からFCに注力することになりました。そして2012年に本橋事務所を設立し、新たなFC業態への加盟を進めてきました。
──別法人の本橋事務所を設立された理由は何だったのですか。
本橋 シュベールでは、直営の喫茶店を経営していたため、競業避止の関係でカフェ業態に加盟が出来なかったのです。そこで本橋事務所を設立し、上島珈琲店や珈琲館に加盟しました。カフェの他にもシャトレーゼやモスバーガーに加盟しています。

1967年に誕生した純喫茶「シュベール」は現在3店舗展開している

(2)投資 譲渡案件を中心に居抜き買取

──28歳での代替わりというのは随分若かったですね。
本橋 先代社長の時代は高度成長期でバブル景気でした。そのため、直営展開を進めるだけでなく不動産投資、さらに一時は海外投資にも手を拡げました。ただ、この海外投資に失敗して、先代社長は経営の第一線から手を引き、当時28歳だった私にバトンタッチしたのです。
──現在サブウェイを店舗展開しています。サブウェイは多店舗展開しているオーナーが少ないため、加盟店の中でかなり店舗数が多い方ではないでしょうか。
本橋 現在は12店舗ですが、実は出入りを合わせるとサブウェイは22店舗も出店してきました。というのも、本部からの譲渡案件も多く、頼まれるままに引き受けることが多かったからです。私は「風見鶏」の考えで出店を行っており、FC本部から良い話が来たら乗るというスタイルを通してきました。当社のような規模の会社は、希望する立地や金額を伝えても基本的に物件は回ってきません。ですから行ける時に行こうという判断で、譲渡案件を積極的に受けてきました。
──確かにゼロから新店を出店するより、譲渡案件の方がスピード感を持って出店できますよね。
本橋 ですが、妻からは「あなたがやっているのは女性の衝動買いと一緒。頼まれているからやっているだけでしょ。なんのポリシーもなければ、なんの考えもない」と言われてしまいました(笑)。でもそれが妙に腹落ちして、その通りかもしれないなと……。
──手厳しいお言葉ですね(笑)。これまでの譲渡案件の条件はどうでしたか。
本橋 前の店舗オーナーや本部から、店とスタッフ丸ごと譲渡してもらうケースもあり、譲渡額は100万円だったり、1円や0円だったりとさまざまです。テナント保証金もそのままついてくる場合もありました。サブウェイ以外にも譲渡の提案をいただくことはあり、2023年には譲渡の形で3店舗を出店しました。近年は建築資材の高騰もあり、外食店舗を新規で立ち上げると安くても4000万円、多くは7000〜8000万円かかります。譲渡案件はその点で投資額は非常に少なく済んでいます。
 しかし利益が少ない店舗も多く、お恥ずかしい話、銀行に「いつまでやってるんだ」と怒られながらやっているようなケースもあります。
──M&A にしてもそうですが、やはり当たりはずれはありますよね。
本橋 振り返ってみると、譲渡案件も含めて、直営とFCを合わせると累計100店舗近くに投資をしてきました。収益実績を見ながら出店と退店を繰り返しているような形です。「七転び八起き」という言葉がありますが、今の私は「七転び五起き」といったところでしょうか。

本部からの事業譲渡により運営を始めたサブウェイの店舗

 

 

東海で展開する給食会社をM&Aし事業領域を拡大 七転び「五」起きから七転び「八」起きを目指す

(3)3つの課題「トレンド変化」「定期借家契約」「人材確保」

──100店舗近く投資してきて現在は43店舗の運営。どこに課題を感じられていますか。
本橋 近年の経営課題のひとつが、トレンド変化の速さにあると考えています。以前は、流行りの業態の人気が年は持続していました。しかし、最近では3〜5年のサイクルでトレンドが変わってしまいます。そのため、他のフランチャイジーさんもブランドの入れ替えを行っているのではないでしょうか。それもあって譲渡案件が多いように感じています。また、テナントの定期借家契約もネックになっています。
──定期借家契約のどこがネックになるのですか。
本橋 当社の契約テナントは6割が定期借家契約で結ばれていますが、定期借家だと、繁盛店であっても契約更新ができないリスクがあるからです。さらに近年の傾向としては、単独テナントより大型商業施設のインショップが増加しています。そのため、施設運営会社の意向により、契約終了即退店のケースもあり得ます。実際に当社でも、好調な売上で営業利益も安定していた上島珈琲店が、施設側の意向によりやむを得ず退店したことがありました。交渉の余地も一切なく、スターバックスに代わってしまいました。償却しきれず2000万円が残りました。
──好調だっただけに、非常に悔しい話ですね。
本橋 さらに解体費が800万円ほどかかりました。しかし、都心部のテナントの解体費はもっと高いです。
坪の物件で、解体費が2800万円と言われこともあり、閉店するだけでも苦労します。
──撤退するのも容易ではないと。他に課題は何ですか。
本橋 経営上で最大の課題はやはり人材です。現在人件費の高騰が激しく、都心部の一番高い時給で1500円の店舗があります。それでも人が集まりません。電話すらも鳴らないんです。スキマバイトアプリを最近は使っているのですが、手数料が高くて…。時給1200円で募集を出しても、手数料を換算すると時給1550円ほどになります。人件費が高くなりすぎて、より利益が出にくくなってしまっているんです。
──時給1500円でも集まらないのは大変ですね。正社員の雇用はどうですか。
本橋 当社は、50年以上続く会社なので、社員38人中社歴10年以上のベテランが50%を占めており、その点では助かっています。ちなみに残りは1〜3年の社歴の社員が35%、4〜10年の社歴の社員が15%です。10年以上の社員に、私と一緒にやせ我慢をしてもらい、無茶をしてもらって、今の経営が成り立っている状況です。
──しかし、これだけ多ブランドでの展開をしていると社員のマネジメントも大変でしょうね。
本橋 店長には1人で2店舗、3店舗を見られるようにしてほしいと伝え、かつやの店長にシャトレーゼを覚えてもらうなど、無理なお願いを聞いてもらっています。社員には、半年に1度個別面談を実施しており、そこで行きたくないお店を教えてもらうことにしています。あえて、行きたいお店は聞きません。行きたくないお店、やりたくないことを聞いて、そこを外して配置するような形にしています。

年1回開催している社員総会

(4)M&Aによる事業領域の拡大と今後の目標

──近年はM&Aで外食以外の事業会社の買収も行っているそうですね。
本橋 まずは2017年に愛知県にある美炎という給食会社をM&Aしました。この会社は、愛知県内の法人のお客様向けに社内食、弁当配達を展開しています。M&Aセンターに紹介によるもので、これを皮切りに次々と紹介をしてもらえるようになりました。
 同じ愛知県内の給食センター梅岡、そして静岡でも引佐給食という同じような事業を展開している会社も M&Aしました。どれも近しい事業なので、相乗効果があることを思い描いていたのですが、なかなか難しく、今はあえて独立採算という形でやっています。また、静岡ではさらに望実という有料老人ホームをM&Aして運営しています
──M&Aに乗り出したきっかけは何ですか。
本橋 先ほど、譲渡案件の受け入れの話でも言いましたが、今は新規出店のコストがかかりすぎ、さらに人の問題もあって事業成長にスピード感が出ません。そこでM&Aをやらせていただくようになりました。つい最近では仙台のベーカリー企業も買収しました。
──これまでは外食で多店舗展開しても首都圏限定でしたが、愛知や静岡、それに仙台となると管理が大変ですね。
本橋 管理は基本的に私一人ですが、それぞれの会社で長く働いてくれた方々が残っているので、その方たちにお任せしています。M&Aした際に「業者も変えないし、何も変えないので、安心してください」とお伝えし、実際にそのままの形でやっています。また、「あんまり期待しないで」とも言ってあります(笑)。私は週に1回は顔を出して、旅芸人のように思ってもらえればいいかなと。時々顔を出して盛り上げて帰る形で、あとは現場の人たちにお任せしています。自分たちのやりたいようにできると、かえって数字が良くなった会社もあります。
──今後、会社としてどのような展開を考えられていますか。
本橋 どうしようかなと思っています(笑)。でも、やせ我慢しながら、もうひと踏ん張り頑張りたいですね。正直成功した実感がまったくないことに寂しさを感じているので、もう少し成功した実感は欲しいですね。先代は、「シュベール」という自分の看板をつくって、家族を養ってきました。しかし、私には自分の看板でという感覚がありません。先代たちがつくってくれた道の上を歩かせてもらっている気持ちを強く持っています。先代が不動産を残しておいてくれて、固定資産があるからお金も借りられているわけですから。
──もっとも、その分、果敢にチャレンジしてきたとも言えるんじゃないですか。
本橋 そうですね(笑)。ただ、今のところは先代が残してくれたものを維持しているので、維持できている間は、もう少し背伸びをさせてもらおうかと思っています。先ほど、七転び五起き状態とお伝えしましたけど、何とか八起きられるように頑張ります。

M&A をした静岡の給食センター引佐給食

会社概要
シュベール
代 表者 本橋史郎
所在地 東京都練馬区
設 立 1972年3月
資本金 1000万円
年 商 17億5,000万円(令和3年度実績)
店舗内容 喫茶店、プロント(FC)、サブウェイ(FC)、かつや(FC)、からやま(FC)、ペッパーランチ(FC)、ブルースカイランドリー(FC)、セントラルキッチンの運営・経営
https://shubelu.co.jp/

 

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